2022.12.23 更新日: 2024.10.08
目次
eラーニング用の動画教材(コンテンツ)を制作するには、いくつかの方法があります。
今回は、ご自身で作る(内製する)場合によく用いられる方法について考えてみましょう。
昨今、特に多いのは、zoomやTeams(Microsoft社)でオンライン勉強会を実施し、その模様を録画。
録画データをそのまま動画教材とするパターンです。
効率よく制作できるメリットはありますが、編集を経ないままリリースする場合、話者の言い間違えや、本来はカットしておきたい無用な発言までが収録されてしまうリスクもあります。
結局、きちんと時間をかけて編集しないのであれば、クオリティの面で難が出ると言えます。
では、何を使って制作すればいいのか?
zoomやTeamsがダメなら、動画編集ソフトを購入しなければいかないのか?
いえ、決してそうではありません。
一つの答えとして、Microsoft社のPowerPointをお使いになることをお勧めします。
PowerPointは、2013年のヴァージョンから、スライド(プレゼンテーション)を、mp4形式の動画に出力することができるようになりました。
しかも、その中に話者(あなた)の音声・映像を挿入することが可能です。
動画編集ソフトといえば、Adobe Premiere ProやDaVinci(ダヴィンチ)、あるいはVyond(ビヨンド)などが有名です。
もし、あなたがこれらのソフトの操作に慣れているのであれば、ぜひ活用されるとよいでしょう。
ですが、そうではなく、「よし、これから勉強しよう」というステータスの場合は、一度、立ち止まってみてはいかがでしょうか。
動画編集ソフトの習得には一定の時間がかかります。
その分、eラーニング教材の完成が遅れてしまいますね。
まずはすでに慣れ親しんでいるPowerPointで動画を制作してみましょう。意外と知られていませんが、PowerPointでも、十分な出来の教材が制作できるのです。
eラーニングは意味ない?教材を使うメリット・デメリットを紹介
ここからは、PowerPointファイルを使った、教材制作の手順をお話しします。
まずは当然のことですが、教材の基となるPowerPointファイルを用意することから始まります。
多くの場合、すでに原案となるファイルはお持ちだと思われます。
そのPowerPointファイルを開き、内容自体に過不足がないか、今一度、点検しましょう。
動画化を行った後で、「あ、この情報は古かった」と気づいても後の祭り。
作業はやりなおしになってしまいます。十分に点検をするようにしてください。
内容の確認が取れたら、次の課題として「このスライドは、動画化するのにふさわしい出来だろうか」という観点でも見つめてみましょう。
具体的なチェック項目は次の通りです。
☑ 一枚のスライドに、あまり多くの情報を詰め込んでいないか
☑ 文字のサイズが小さすぎないか
☑ 文字の量が多すぎないか
☑ アニメーションが多用されていないか
☑ ハイパーリンクが使われていないか
☑ 著作権に抵触するイラスト・写真が使われていないか
一枚のスライドの中に、あまり多くの情報を詰め込まないようにしましょう。
一枚のスライドに盛り込む要点は、一つだけに留めてください。多くの情報を詰め込みすぎれば、動画を見る側の混乱を招いてしまいます。
あれもこれも詰め込んで、全体のスライド枚数を減らそうとする方もいます。普段から節約がお好きなのかもしれませんね。ですが、動画教材にするPowerPointであれば、むしろ「枚数を増やす」ことに腐心した方がよいでしょう。
スライド内の文字のサイズが「小さすぎないか」も要注意です。
もちろん「大きすぎる」のもあまりよくありませんが、そちらは見栄えの問題。
一方、「小さすぎる」のは、そもそも内容を読んでいただけない可能性があります。
昨今は、動画をPCではなくスマートフォンで視聴される視聴者も大勢います。
文字の大きさについても細心の注意を払うよう心がけましょう。
文字の量が多すぎるのも問題です。見る側の集中力を損ねます。
スライド内の文字数は、少なければ少ないほどよいのです。
まるで書籍のように文字だらけのスライドは、「動画教材」とは呼べません。
どうしても文字量を減らせないのであれば、動画化することをあきらめ、PDFなどにして配布した方が、むしろ学習効果が高まると言えるでしょう。
一般的に、箇条書きを使う、体言止めを使う、表やグラフなどのビジュアルオブジェクトに変える、といった方法が、文字数削減のために有効です。
くれぐれも、「文章」にしないよう注意しましょう。
アニメーションの多用も注意したいところです。
PowerPointの初心者ほど、必要以上にアニメーションを実装しようとします。
アニメーション自体がダメだというわけではありませんが、学習効果を高めるために上手く実装するのはコツが要ります。
初心者には困難です。安易に取り入れない方が無難だといえるでしょう。
むしろ、画面に変化を生むという意味では、スライド枚数を多くする方がベターです。
適度なタイミングで次のスライド、次のスライドへ切り替えていく方が、作る側も作業がラクですし、見ている側も飽きにくくなります。
細かいことですが、動画化を想定して作られたわけではないPowerPointファイルには、ハイパーリンクが使われている場合があります。つまり、社内のイントラネット(ファイルサーバー)へのリンクが貼られていることがあります。
動画化の際、これらのリンクは無効になってしまいます。「ここをクリック!」などの文言が表示されても、カーソルを合わせたところで何ら作動しないわけです。視聴者の混乱を招かないよう、ハイパーリンクの仕込まれた箇所には何らかの修正を施しましょう。
その他、著作権に抵触するイラスト・写真が使われていないかも、今一度、確認しましょう。
もしも使ってしまっている場合は、きちんと購入手続きをするなど、権利関係をクリアにしておくことをお勧めします。
え、社内でのみ利用するから大丈夫?
いいえ。たとえば、退職者が「前職の会社では、違法なeラーニングコンテンツを作っていたよ」などと、SNSで発信しないとも限りません。現代は、そのようなリスクも看過できない時代です。
スライドの準備ができたら、次はトークスクリプト(ナレーション原稿)を用意しましょう。
もちろん、原稿が無くても流暢に解説することができる自身があれば用意しなくても構いませんが、そのような方はごく一部だと思われます。
Word等に作成しても構いませんが、各スライドのノート欄に、それぞれのスライドごとのトークスクリプトを入力するようにした方が便利でしょう。
気をつけたいのは、「聞きやすい言葉になっているか」という点です。
必要性のない場面で、馴染みのない難しい言葉を使わないようにしましょう。
「架電しましょう」であれば、「電話をしましょう」の方がよいのです。
「踏襲します」であれば、「前のやり方に合わせます」などに言い換えられないでしょうか。
日常会話で登場しないような言葉はできるだけ避け、平易な言葉に言い換えることで、だいぶ聞きやすい原稿になるでしょう。
スライドとトークスクリプトが完成したら、リハーサルを行いましょう。
PowerPointをスライドショーモードで投影しながら、実際に原稿を発声してみるのです。
可能であれば、職場のどなたかに聞いていただくとより良いでしょう。客観的な意見を得ることができます。
この工程は、話者(あなた)自身のプレゼンテーション技術向上に寄与するだけでなく、スライドやトークスクリプト上のミス、改善点に気づく効果も期待できます。
気づいたことがあればすぐに資料へ反映し、再度、リハーサルを行うようにしましょう。
手順④までの準備がすべて終わったら、いよいよ動画撮影・音声収録です。
PowerPointの詳しい操作手順を、約3分の動画にまとめました。こちらをご視聴ください。
撮影、お疲れ様でした。
完成した動画は、必ず自分自身でチェックするようにしましょう。
スライドの点検は事前に十分行っていると思いますが、あなた(話者)自身のパフォーマンスはどうでしょうか。聴き取りやすい発声になっているでしょうか。
心配であれば、職場のどなたかにも視聴していただき、ご意見を頂きましょう。
ただし、100点満点を目指す必要はありません。
作り手自身すら満足するような完璧なコンテンツを作ることは、プロであっても至難の業です。
「まあ、70~80点くらいだな」と思えるレベルであれば、十分、リリース可能な出来であると判断してよいのではないでしょうか。
費用対効果の観点からも、くれぐれも100点満点を目指さないことが大切です。
もちろん、「次はここに気をつけよう」など、気づいた改善点をメモに残し、次回の制作へ繋げていくことには意味があります。教材制作を定期的に行うような場合は、このようなPDCAサイクルを回すことを心がけるとよいでしょう。
eラーニングは「やらせっぱなし」ではいけません。
ぜひ、実際に視聴した方々の感想を、何らかの形で伺うようにしましょう。たとえば、アンケートを実施してみてはいかがでしょうか。
その場合、
・スライドは見やすかったか。
・動画の長さは適切だったか。
・音声は聞き取りやすかったか。
・退屈せずに集中して視聴できたか。
・内容について理解ができたか。
最低でもこの5点は伺っておくことをお勧めします。
もちろん、感想を集めるだけでなく、その結果を次回への改善に活かす姿勢が大切です。
たとえば、「スライドが見やすくない」という意見が多い場合は、何が見づらさを生んでいたのかを深く考察しましょう。
図や写真・イラスト類が少なく、文字が多すぎるのが原因かもしれません。
図表やグラフがあるのに「見やすくない」と指摘される場合は、文字の大きさや色使いを見直してみましょう。
「動画の長さが適切でない」という意見が多い場合は、たいていの場合、「長すぎる」と言われているのだと捉えましょう。
視聴者は、10分の動画より、5分の動画を好みます。5分の動画より、3分の動画を好むのです。
もちろん、「このテーマは10分間かけて説明しなければ、理解できない内容だ」ということはあるでしょう。
何が何でも短縮せよ、常に5分以内にまとめよ、ということではありません。
ですが、10分の内容を、前編・後編に分けるなど、5分ずつの2本の動画に分割することはできますね。その程度の工夫でも、視聴者の集中力を助ける効果が狙えます。
「音声が聞き取りにくい」という声が多い場合は、まず、あなた(話者)の話し方にクセがないかを確認しましょう。
早口すぎる、活舌が良くない、などの課題があるかもしれません。
あるいは、音声にノイズが入っているために聞き取りにくくなっている、という可能性もあります。そ
うであれば、ノイズの入らない、閑静な場所で収録を行えば解決できるでしょう。
「退屈してしまう」「集中して視聴できない」という意見が多い場合はどうでしょうか。
視聴者が、「これは、私にとって大切なテーマだ」「しっかり学ばないといけないな」という気持ちになれないままに視聴を進めると、次第にこのような感情になります。
「面白くない」と言われたからといって、無理にジョークを入れたりする必要はないのです。
それよりも、動画の冒頭で、今回のテーマをなぜ学ぶ必要があるのか、丁寧に解説し、視聴者の意識を学習へ向ける工夫をすることをお勧めします。
もちろん、抑揚のある話し方や、スライドの作り方次第で、退屈しづらい教材にすることもできます。ですが、それらは一朝一夕で身につくものではありません。むしろ、「なぜ、私はこの動画を見なければいけないのか」を動画の冒頭できちんと伝え、少しでもやる気になってもらうこと。これこそが一番に改善すべきことであり、すぐに着手できることではないでしょうか。
「内容について理解ができなかった」という意見が多い場合は、まず、教材側に問題がある可能性を疑います。
もし、教材自体にあまり欠点が見当たらない場合は、視聴者のレベルに問題がある可能性を疑いましょう。
掛け算の九九もできない小学生に、正方形の面積の求め方を解説しても、分かるわけがありません。
まず、九九を先に教える必要がありますね。
同様に、「この内容は難しすぎる」と大勢から言われる場合は、ギャップを埋めるための別の教材を制作し、そちらの視聴を促すようにしましょう。
「情報セキュリティ」をテーマにした教材では、「ファイアーウォール」「マルウェア」「標的型攻撃」などの言葉が当たり前のように登場します。
もし、インターネットの基本知識がまったくないような人々が視聴した場合、これらの言葉は宇宙語に聞こえてしまうかもしれません。そういった方々にも情報セキュリティを教えたいのであれば、先に、「これだけは押さえておこう、インターネットの基礎知識」という教材を視聴していただく必要があるのです。
いずれにせよ、視聴者の率直な感想には、次の教材作りのヒントが詰まっています。プロの制作者も、自作に満足せず、常にユーザーの声に耳を傾け、改善点を研究しています
ここまで、PowerPointを使ってご自身で動画制作を行う手順を解説してきました。
一度目で良いものが作れなかったとしても、あきらめることはありません。二回、三回と繰り返していくうちに、制作技術は確実に向上します。
一方で、本当にご自身ですべての動画教材を制作しなければいけないのか、あるいは動画制作の全工程を一人でやらないといけないのか、冷静に考えていただくことも大切です。
PowerPointでの動画制作。
ソフトの操作自体は、決して難しくありません。
ですが、良い動画教材を制作するためには、撮影の事前事後に、非常に多くのポイントに注意を払わなければなりません。
すでに感じていらっしゃる通りです。少なくとも、片手間でできる業務ではありません。
ですから、プロの業者への委託も、選択肢の一つとして持っておくと良いでしょう。
たとえば――
・PowerPointのスライド作成は自分で行うが、、トークスクリプトは作成してほしい
・PowerPointスライドの見栄えをよくするため、デザインの見直しをかけたい
・自分の声ではなく、プロの声優(ナレーター)を起用したい
――など、一部の工程だけをアウトソーシングする方法もあります。
もちろん、すべてを委託することもできます。
eラーニング制作のプロ集団・株式会社ITBeeは、PowerPoint動画の制作について、どの工程からでもご協力可能です。
ご予算に応じた最適なご提案も行っています。
今回ご紹介した内容を参考に、視聴者がしっかり集中してくださるような、素敵なPowerPoint動画を制作していただきたいと思います。
繰り返しになりますが、PowerPointによる撮影は、ソフトの操作自体はそこまで難しいものではありません。数回の練習を行えば、どなたでもコツを掴めると思われます。
むしろ、スライドやトークスクリプトの準備、発声する練習、制作した動画のチェックなど、撮影の事前事後にこそ重要な工程が控えています。
これらの工程をおろそかにすれば、結局、何度も何度も動画を作り直す羽目になります。
あるいは、不出来な教材のままリリースすることになります。
ご案内した通り、プロの業者への委託も選択肢に含めてはいかがでしょうか。
仮に委託することになったとしても、原案となるPowerPointがしっかりとした状態で仕上がっていれば、費用を抑えることに繋がります。あなたの努力は無駄になりません。
そして、プロに委託する場合も、ご自身で作り切る場合も、実施後に視聴者の感想を収集し、次回への遺産とすることは忘れないでください。
社内教育は継続が肝心です。それは学ぶ側だけでなく、教材を提供する側にとっても同じだと言えるのです。